離婚した元夫の遺言・遺留分|娘に財産は残る?

離婚・シングルマザー

前回、「離婚した元夫が亡くなったとき、子どもの遺族年金や借金はどうなるのか」を調べてまとめました。そのとき、私の中にもうひとつ引っかかったことがありました。

――もし元夫が「遺言(ゆいごん)」を残していて、そこに「財産は全部、別の人へ」と書かれていたら? 娘には何も残らないんだろうか。そもそも、その遺言って本物なの? 誰かが勝手に書いたものだったら?

正直にお伝えすると、私自身は財産をがつがつ取りに行く気持ちは1ミリもありません。むしろ元夫の相続には関わりたくないので、もし何かあれば「全部放棄する」一択だと思っています。それでも調べているのは、当時は借金がなくても、今は借金ができているかもしれないからです。それを知らないうちに娘が背負ってしまう――それだけは絶対に避けたい。実際に「知らずに借金を背負った」という親戚の話を聞いて、なおさらそう思いました。

だからこの記事は、「もらう・もらわない」より前に、知らなかったで損をしないための知識として書きます。同じように不安を抱える方の役に立てばうれしいです。

※相続や遺言は一人ひとり事情が違い、法律も変わります。この記事は全体像をつかむためのもので、実際に動くときは弁護士・家庭裁判所・法テラスなどに必ず確認してください。

まず、結論だけ先に(ここだけでもOK)

  • 遺言があっても、子どもには「最低限の取り分」が法律で守られている(=遺留分)。名前が書かれていなくても、ゼロにはならない。
  • あやしい遺言(パソコンで作った・誰かが勝手に書いた)は、認められないことがある
  • 放棄したい人は放棄でいい。財産はいらない=関わらない、という選び方もちゃんとできる。

では、ひとつずつやさしく見ていきます。

そもそも「遺言」があると、どうなるの?

遺言は、亡くなった人の最後の意思として、とても強い力を持ちます。「財産は○○へ」と書いてあれば、原則その通りに分けます。相続人みんなで話し合って分ける手続き(遺産分割協議)も、原則いりません。

つまり、遺言があると「書いてある通りに進む」のが基本です。だからこそ、その遺言が本物かどうか・ちゃんとした形で作られているかが、とても大事になります。

遺言には「種類」がある

遺言にはいくつか種類がありますが、よく出てくるのはこの2つです。

  • 公正証書遺言(こうせいしょうしょ ゆいごん):公証役場というところで、公証人という専門家が作る遺言。原本を役場が保管します。一番安心で、偽造されにくいタイプです。家庭裁判所の「検認(けんにん)」という手続きもいりません。
  • 自筆証書遺言(じひつしょうしょ ゆいごん):本人が自分で書く遺言。手軽な反面、ルールを外すと無効になりやすく、偽造の心配も出やすいタイプです。原則、開ける前に家庭裁判所の「検認」が必要です(勝手に開けてはいけません)。

「検認」というのは、家庭裁判所が遺言の状態を確認して、後からの書きかえを防ぐための手続きです。注意したいのは、検認は「本物だと認める」手続きではないということ。中身が有効か無効かは、検認では決まりません。

ここが心配:その遺言、本物? ニセモノだったら?

「誰かが勝手に書いて、本人が書いたように見せかけたら?」「パソコンで打って、最後に名前と印鑑だけ本人っぽくしたら、バレないんじゃない?」――これは多くの人が気になるところだと思います。私も同じ疑問を持ちました。調べたら、ちゃんと歯止めがありました。

① 自分で書く遺言は「全部手書き」が条件

自分で書く遺言(自筆証書遺言)には、はっきりしたルールがあります。本文・日付・名前を、全部自分の手で書いて、印鑑を押すこと(民法968条)。ここを外すと無効になります。

  • パソコンで打った本文は無効。最後に名前だけ手書きして印鑑を押しても、本文がパソコンならダメです。
  • 日付があいまいなのも無効。「○年○月吉日」のような書き方で、遺言全体が無効になった例があります。日付は「○年○月○日」とはっきり必要です。
  • 例外は財産の一覧表だけ。財産の目録(リスト)はパソコンで作ってもよいですが、その各ページに署名と押印が必要です。あくまで本文は手書きが条件です。

つまり「パソコンで全部打って、名前と印鑑だけ」というものは、自分で書く遺言としてはそもそも認められません

② 「第三者が書いて本人のフリ」は、こうして争える

では、誰かが筆跡をかなり似せて書き、「本人が書いたものだ」と言い張ったら? これも、おかしいと思えば争う道があります。

  • 筆跡鑑定:専門家が文字を調べます。ただし鑑定する人によって結果が分かれることも多く、これ「だけ」で決まるわけではありません。あくまで証拠の一つです。
  • ほかの証拠も合わせる:書いたとされる日に、本人に書く力や判断する力があったか(当時の診断書など)、まわりの人の証言などを合わせて判断されます。
  • 「遺言無効確認の訴え」:おかしいと思ったら、裁判所に「この遺言は無効です」と確認してもらう裁判を起こせます。

③ 偽造した人は、相続そのものを失う

そして、ここが大きなポイントです。遺言を偽造したり、書きかえたり、隠したり、破ったりした人は、相続する権利をまるごと失います(相続欠格・民法891条)。裁判の手続きもいらず、当然に権利を失う、というほど重いものです。さらに、他人の名前で文書を作る行為は犯罪(私文書偽造など)にもあたります。

「バレなければ得をする」どころか、バレたら全部失ってうえに罪に問われる――そういう仕組みになっているということです。

だからこそ、確実に残したい人は、最初から公正証書遺言で作るのが安心です。公証人が作り、役場が原本を保管するので、偽造のしようがありません。

子どもには「遺留分」=最低限の取り分がある

たとえ正式な遺言で「財産は全部ほかの人へ」と決まっていても、子どもの取り分がゼロになるわけではありません。法律は、一定の人に「ここだけは最低限もらえる」という枠を用意しています。これが遺留分(いりゅうぶん)です。

  • 遺留分があるのは:配偶者・子・親など。兄弟姉妹にはありません
  • 離婚した元妻(私自身)は対象外:離婚で配偶者ではなくなっているので、元夫の相続人ではなく、遺留分もありません。守る対象は、親子関係が続いている「子ども」です。
  • どれくらい?:細かい計算は財産しだいですが、目安として、子が相続人のケースでは「遺産全体の半分」が遺留分の枠になります。子どもが複数いれば、その半分を人数で分けます。

※具体的な金額は財産の中身で変わるので、見積もりは専門家に確認してください(この記事では金額は出しません)。

名前がなくても取り戻せる――でも「自分から」言わないと始まらない

遺言で財産が他の人に渡されていて、子どもの遺留分が侵害されているとき、子どもの側から「私の取り分を返してください」と求めることで、お金で取り戻せます(遺留分侵害額請求)。大事なのは次の点です。

  • 放っておいても戻ってこない:自分から「請求します」と言って、はじめて動き出します。
  • 期限がある:「亡くなったこと+取り分を侵害されたことを知った時から1年」で、その後は請求できなくなります(さらに、知らなくても相続開始から10年で消えます)。気づいたら早めに動くのが大切です。

動くときの順番(シンプルに)

  1. 遺言があるか・中身を確認:公正証書遺言は全国の公証役場で検索できます。自筆のものは家庭裁判所で検認を。
  2. 財産の中身を調べる:何がどれくらいあるか(預金・不動産・借金など)。調べ方は前回の記事にまとめています。
  3. 「請求します」と書面で伝える:いつ請求したかを残せる内容証明郵便で送るのが安心です。
  4. 話し合い:金額や支払い方を相手と話します。
  5. まとまらなければ家庭裁判所の調停:※調停を申し立てただけでは「請求した」ことにならないので、③の内容証明を先にしておく必要があります。

娘がまだ未成年のとき

子どもが未成年だと、本人だけでは手続きできないので、親権者が代わりに動きます。離婚して親権を持つ私のような立場なら、私が娘の代理になります。

このとき気をつけたいのが「親と子で取り分を取り合う関係だと、親が代理しにくい」というルール(利益相反)です。でも、離婚した元妻は元夫の相続人ではないので、娘と取り分を取り合う関係になりません。その点では、親権者として動きやすい立場だといえます。迷うときは家庭裁判所や弁護士に確認を。

ここだけ気をつけて(まとめ)

  • パソコンで打っただけの遺言は無効。手書き+日付+名前+印鑑が条件。
  • あやしい遺言は争える。偽造した人は相続権を失い、罪にも問われる。
  • 確実に残すなら公正証書遺言が安心。
  • 子どもの遺留分は自動で戻らない。自分から、しかも1年以内に。
  • 放棄したい人は放棄でいい。財産も借金もまとめて手放す選び方がある(前回の記事へ)。
  • 金額や有利・不利の判断は専門家へ。弁護士・法テラス・家庭裁判所に確認を。

おわりに

調べる前は、「遺言で全部ほかの人に、と書かれていたら娘には何も残らないのかも」「ニセモノを作られたら終わりなのかも」と、ぼんやり不安でした。でも知ってみると、子どもには遺留分という最低限の取り分があり、あやしい遺言にはちゃんと歯止めがある、と分かりました。

くり返しになりますが、私は財産がほしいわけではありません。むしろ関わりたくないし、放棄するつもりです。それでも、こうして知っておくのは、「知らなかったから」で娘の人生が損をしないためです。当時は借金がなくても、今はどうか分からない。知らないうちに娘に降りかかるのだけは、絶対に避けたいから。

不安なときほど、まず「知る」こと。知っているだけで、いざというときの選択肢が増えます。私自身も、ひとつずつ確かめながら、ここに残していこうと思います。

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