離婚してひとりで子どもを育てていると、お金や手続きの面で「これって、どうなるんだろう?」と気になることが次々に出てきます。そのひとつが――元夫が亡くなったとき、何か子どもに降りかかってくることはないか、ということでした。私も、ふとこの疑問を持ったひとりです。
気になったのは、元夫のことではなく――子どもに不利益が及ばないか、どう守れるか、でした。
- もしものとき、子どもは遺族年金をもらえるの?
- 逆に、知らないうちに借金を背負わされたりしない?
調べてみると、知らないと損をすること、知らないと子どもを守れないことがいくつもありました。しかも「手続きの仕方」まで分からないと、いざというとき動けません。そこでこの記事では、子どもに関わることを中心に、最後の手続きまでまとめます。読み終わったあと、また調べ直さなくていいように。
まず、子どもは「遺族年金」をもらえる可能性があります
離婚しても、子どもと父親の親子関係は切れません。だから、一定の条件を満たせば、子ども自身が遺族年金を受け取れる可能性があります。ただし、年金の種類によって扱いが変わります。
- 遺族厚生年金(元夫が会社員などで厚生年金に入っていた場合)
条件を満たせば、子どもが18歳になった年度末(高校卒業のころ)まで受け取れる可能性があります。母親と一緒に暮らしていても対象になります。 - 遺族基礎年金
子どもに受け取る権利が生じても、「生計を同じくする父または母がいる間は支給が止まる」というルールがあります。つまり母親(あなた)と暮らす子どもは、こちらは受け取りにくいのが実情です。
カギは「養育費=生活を支えられていたか」
子どもが受け取れるかどうかの分かれ目は、「亡くなった父親に生活を支えられていたか(生計維持)」という点です。その代表的な証拠が――養育費を受け取っていたことです。養育費がきちんと支払われていれば、子どもの受給につながる可能性が出てきます。
元夫が再婚して、その家庭にも子どもがいる場合は?
この場合、子どものいる再婚相手(後妻)が優先されるため、前の結婚でできた子どもの遺族年金は止まることが多いとされています。状況によって細かく変わるので、「そういう傾向がある」と理解しておいてください。
次に、一番心配な「知らない借金」から子どもを守る方法
ここが、この記事の本題です。
子どもは父親の相続人なので、何もしなければ借金も引き継いでしまいます。でも――知らないうちに、勝手に背負わされることはありません。安心してください。
理由は、借金を手放す「相続放棄」の期限(3か月)が、「亡くなったこと、そして自分が相続人だと知った時」から数え始めるからです。知らなければ、カウントも始まりません。
そもそも、亡くなったことをどうやって知るの?
連絡を取っていない相手だと、亡くなったことすら分かりませんよね。調べた結論、自動で知らせる制度はなく、知るきっかけは主に次の4つです。
- 元夫の親族からの連絡
- 共通の知人からの連絡
- 借金の貸し手(債権者)から、子ども宛に届く返済の請求
- 戸籍(除籍)を取り寄せて確認する(子どもは父親の戸籍をたどれます)
逆に言えば、この4つ以外で自然に知ることはほとんどない、ということです。
知ったあとが勝負。1年後に知っても間に合う
たとえば1年後に知ったとしても、原則として「知った時から3か月以内」に手続きすれば、子どもを守れます。さらに、「借金なんてないと信じていて当然だった」と認められる事情があれば、借金の存在を知った時から3か月という例外が認められた裁判例もあります。
ただし、知ったあとに何もせず3か月を過ぎると、背負ってしまいます。だから「知ったら、すぐ動く」。これだけは覚えておいてください。
その前に大事なこと:相続放棄は「財産も」手放すことになります
手続きの前に、必ず知っておいてほしいことがあります。相続放棄は「借金だけ手放す」ことはできません。預貯金や不動産といったプラスの財産も、まとめて全部手放すことになります。「借金は捨てて、財産だけもらう」という都合のいい選び方はできないのです。
ですから、相続放棄を決める前に、できる範囲で「借金と財産、どちらが多そうか」を確かめることが大切です。借金の方が多ければ放棄、財産の方が明らかに多ければ相続した方がよい場合もあります。
「借金と財産、どちらが多いか」の調べ方
判断するために、次のような方法で調べられます。
- 借金 … 信用情報機関(CIC・JICC・全国銀行協会)に、相続人として開示請求ができます(おおむね1週間ほど)。クレジット・ローン・銀行の借入が、ほぼ分かります。
- 不動産 … 不動産がありそうな市区町村の役所の「資産税課(固定資産税の担当課)」で、「名寄帳(なよせちょう)」を取ると、その人名義の不動産の一覧が分かります(東京23区は都税事務所。相続人なら郵送でも請求できます)。
※名寄帳はその市区町村内の不動産しか分からないので、心当たりのある市区町村ごとに取り寄せます。 - 預貯金 … 通帳・キャッシュカード・銀行からの郵便物が手がかりになります。どの銀行か分からない場合でも、心当たりの銀行に「全店照会」をすれば、その銀行の全支店の口座を一括で調べてもらえます。とくにゆうちょ銀行は「現存調査」といって、口座番号が分からなくても全国の口座をまとめて確認できます(いずれも相続人として請求します)。
なお、「財産の範囲内で借金を返し、余ればその分は受け取る」という限定承認という方法もあります。ただし相続人全員の同意が必要で手続きも複雑なので、迷うときは司法書士や弁護士に相談してください。
そもそも、財産があるかどうか分かるの?
「あなたは相続人です」と自動で知らせてくれる制度はありません。ただ、ほかの相続人(再婚相手や元夫の親など)が遺産を分ける手続きをするとき、相続人が一人でも欠けると話し合いが成立しないため、戸籍をたどって連絡してくることがあります。逆に、連絡が来ないまま、ということもあります。気になるときは、戸籍などから自分で確認する姿勢が大切です。
「子どもの存在をなかったことにして、勝手に手続きされてしまわない?」と心配になるかもしれません。でも、その点は大丈夫です。遺言書がない場合、相続人を一人でも除いた遺産の分け方(遺産分割協議)は無効になります。預金の解約や不動産の名義変更のときには、銀行や法務局が戸籍で相続人全員を確認するため、お子さんを抜きにして勝手に進めることはできません。(※遺言書がある場合は別ですが、その場合もお子さんには「遺留分」という最低限の取り分を求める権利があります。くわしくは 離婚した元夫の遺言・遺留分|娘に財産は残る? にまとめました。)
【完結編】相続放棄の手続き、具体的にどうやる?
「裁判所に手続き」と言われても、何をどうすればいいのか分かりませんよね。順番に、具体的に見ていきます。
① どこに出す?
提出先は、亡くなった元夫の「最後の住所地」を管轄する家庭裁判所です。
注意:あなたや子どもの最寄りの裁判所ではありません。元夫が最後に住んでいた地域の家庭裁判所なので、ここは間違えやすいポイントです。どの家庭裁判所が管轄かは、裁判所のホームページの「管轄区域」で確認できます。
② 何の書類が必要?(子どもが放棄する場合)
- 相続放棄申述書(裁判所のホームページでダウンロードできます)
- 元夫の死亡が分かる戸籍謄本 …1通
- 元夫の住民票の除票(または戸籍の附票) …1通
- 子ども(申述人)の戸籍謄本 …1通
- 収入印紙 800円分(子ども1人につき)
- 連絡用の郵便切手(数百円分。金額は提出先の家庭裁判所によって異なります)
戸籍はそれぞれ基本1通ずつでかまいません。きょうだいが複数同時に放棄する場合、元夫の戸籍など共通の書類は1通でよく、申述書だけ人数分必要です。
③ 印鑑はどうする?
相続放棄申述書には押印が必要です。一般的には認印で足りるとされ、実印や印鑑証明は不要なことが多いです(念のため提出先の家庭裁判所に確認してください)。
④ 子ども本人も、裁判所に行かないといけない?
いいえ。裁判所に出向く必要はありません。郵送で手続きできます(書類が確実に届くよう、簡易書留やレターパックがおすすめです)。
たとえば元夫の最後の住所地が北海道など遠方であっても、あなたが現地まで行く必要はありません。申述書の提出も、その後の「照会書」のやり取りも、すべて郵送ででき、一度も裁判所に行かずに完結できます。戸籍や住民票の除票も、役所へ郵送で取り寄せできるので、書類集めから提出まで、郵送だけで進められます。
そして、子どもが未成年の場合は、親であるあなたが代理で手続きできます。ここで大事なポイント――離婚したあなた(元妻)は、元夫の相続人ではありません。だから子どもと利益がぶつからず、「特別代理人」を立てなくても、あなたがそのまま代理人として手続きできます。
(※ きょうだいの一部だけが放棄するなど特殊なケースでは、特別代理人が必要なこともあります。その場合は家庭裁判所に確認してください。)
⑤ 提出してからの流れ(時系列)
- 元夫の死亡を知る
- 必要書類を集める(戸籍など)
- 相続放棄申述書を書く
- 元夫の最後の住所地の家庭裁判所へ提出(郵送OK)
- 数日後、家庭裁判所から「照会書(質問票)」が届く
- 照会書に記入して返送する
- 受理されると「相続放棄申述受理通知書」が届く → これで相続放棄が成立
この受理通知書が、「子どもは借金を引き継ぎませんでした」という正式な証明になります。借金の請求が来ても、これを示せば対応できます。
⑥ かかるお金の目安
- 収入印紙 800円(子ども1人につき)
- 郵便切手 数百円
- 戸籍などの取得手数料 各数百円
合計で、おおよそ数千円程度です(2026年6月時点)。金額は変わることがあるので、最新は裁判所で確認してください。
注意:放棄すると、借金は「次の順位の人」に移ります
もうひとつ、大事なこと。子どもが相続放棄をすると、その借金は消えるわけではなく、次の順位の人に移ります。具体的には、元夫の親(存命であれば)→いなければ元夫の兄弟姉妹、という順番です。
つまり、子どもが放棄したことを知らせないと、元夫のご兄弟などが知らないうちに借金を引き継いでしまうおそれがあります。放棄したら、次に相続人になる親族にひと言伝えておくのが親切です。なお、相続人になりうる人が全員放棄すると、最終的には家庭裁判所が選んだ「相続財産清算人」が財産を整理することになるので、宙ぶらりんのままにはなりません。
「遺族年金はもらって、借金は放棄」――これ、両方できます
「借金を放棄したら、遺族年金ももらえないのでは?」と思いますよね。でも、両方できます。
遺族年金は、相続財産ではなく「残された家族が自分の権利として受け取るお金」だからです。だから、相続放棄をしても、子どもの遺族年金は受け取れます。借金は手放して、もらえるものはきちんともらう。これが両立できるんです。
(補足)元妻であるあなた自身は、遺族年金の対象外です
念のため。離婚すると夫婦の関係はなくなるので、元妻であるあなた自身は元夫の遺族年金を受け取れません。受け取れる可能性があるのは、あくまで「子ども」です。
最後に:必ず専門の窓口で確認を
ここまで具体的にまとめてきましたが、年金も相続も、一人ひとりの状況によって結論が変わります。そして期限を過ぎると取り返しがつかないこともあります。実際に動くときは、必ず次の窓口に確認してください。
- 遺族年金 … 年金事務所・お住まいの市区町村
- 相続放棄 … 元夫の最後の住所地の家庭裁判所、司法書士・弁護士
この記事は「まず全体像を知り、動き出すための地図」として使っていただけたらうれしいです。大切な子どもを守るために、知っておくだけで違うことがあります。同じ疑問を持った方の、お守りになりますように。
離婚の手続きや進め方の全体像については、こちらの記事でまとめています。あわせて読んでみてください。
>> 離婚の手続き・進め方の全体ガイドを読む


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