「公営住宅は家賃が安いらしい」——そう聞いて調べはじめたとき、私はまず、名前の多さでつまずきました。
市営住宅、県営住宅、公社の賃貸住宅、UR賃貸。どれも「公的な団地」というひとくくりの印象で、何がどう違うのか、さっぱりわからなかったんです。
正直に言うと、わからなかったのは名前だけではありません。家賃がいくらなのかも、どうやって申し込むのかも、そもそも自分が入れるのかも、全部わからないままでした。
今日は、その「全部わからない」を1つずつほどいていきますね。市営と県営は何が違うのか、収入はいくらまでなら入れるのか、申し込みはどうするのか。
調べてみたら、思っていたのとまるで違う世界でした……!
私が最初につまずいたのは、名前でした
きっかけは、インターネットで見つけた1件の物件でした。
気になったので、現地まで行って外観を見てきました。建物の雰囲気も、周りの環境もとても良さそうで、「ここ、いいな」と思って、そのまま問い合わせの電話をかけたんです。
そうしたら、こう言われました。
「そちらは市営ですね」
……え、と思いました。私が電話をかけた先と、私が見ていた建物は、別のところが運営していたんです。
同じ駅のそばに、市営住宅と、公社の賃貸住宅が両方あった。そのことを、私はこのとき初めて知りました。
見た目はどちらも同じような集合住宅です。歩いているだけでは、区別がつきません。ただ、中身は別の制度で、申し込み先も、条件も、入り方もまったく違う。知らずに電話をかけて、その場で教えてもらうまで気づけませんでした。
なので、もし今これを読んでいる方が「違いがわからない」と感じていても、知らない方のほうが多いのではないかと思います。私も、まったく同じところでつまずいたので……。
先に結論|違うのは「基準の高さ」ではなく「入り方」
調べていて、一番最初に知りたかったのがこれでした。
「市営と県営って、どっちのほうが条件が厳しいの?」
答えから言うと、どちらが上とか下とか、そういう関係ではありませんでした。
市営住宅も県営住宅も、同じ「公営住宅法」という法律にもとづいて建てられた公営住宅です。運営しているのが市区町村なら市営、都道府県なら県営。それだけの違いで、しくみそのものは同じなんです。
では何が違うのか。申し込みの方法と、入居者の決まり方でした。ここが、かなりはっきり分かれていました。
市営と県営、ここが違いました
私が住んでいる自治体で調べた範囲では、こうなっていました。
| 市営住宅 | 県営住宅 | |
|---|---|---|
| 申し込み方 | 郵送 または 電子申請 (窓口では受け付けていない) |
窓口に持っていく (住宅管理事務所・支所など) |
| 決まり方 | 抽せん | 先着順の枠がある (常時募集) /定期募集は公開抽せん |
| 募集の回数 | 一般 年4回 ひとり親など向け 年2回 |
常時募集は随時 定期募集は年3回 |
気づかれたでしょうか。ほとんど正反対なんです。
市営は「家で書いて送る」、県営は「持っていく」。市営は「運」、県営の常時募集は「早さ」。
ここで大事なことが1つあります。公営住宅は抽選だけ、ではありませんでした。
私はずっと「公営住宅=人気で抽選、当たるかどうかは運」だと思い込んでいました。実際には、県営住宅には空き家が出たときに受付順で入れる「常時募集」があります。抽せんではなく、先に申し込んだ人から順番、という形です。
つまり市営と県営の両方を見ておくと、申し込みのチャンスが単純に増えるということになります。片方しか見ていないのは、もったいないかもしれません。
申し込んでから入居まで、どれくらいかかる?
ここも先に知っておきたかったところです。「申し込んだら来月から住める」のかと思っていたら、まったく違いました。
市営住宅の一般募集で公表されている流れは、こうでした。
- 募集案内の配布(区役所・支所・住まいの窓口など)
- 郵送または電子申請で申し込み
- 抽せん
- 資格審査の書類を提出(住民票・所得証明書など)
- 結果の通知
- 入居
実際の日程で見ると、5月下旬に申し込み → 6月中旬に抽せん → 入居できるのは9月上旬。およそ3か月半かかる計算です。
これ、知らないと予定が狂います。今の家の更新が迫っているとか、子どもの学校の区切りに合わせたいとか、そういう事情がある場合は、逆算して動き出す必要がありました。
そして募集は、いつでもやっているわけではありません。一般募集は年4回、時期が決まっています。「思い立ったときに申し込む」ではなく、「募集の時期に合わせる」。ここは民間の賃貸とまったく違うところでした。
県営住宅のほうは、日数が決まっていませんでした
では県営住宅はどうなのか。ここは調べても、はっきりした日数が出てきませんでした。公式の案内を見ても、申し込みから入居までの期間は書かれていません。
理由は、しくみが違うからでした。
常時募集(先着順)は、受付そのものが数か月にわたって開いています。ある年度の回では、7月から10月末までの約4か月間が受付期間になっていました。申し込んだあとは、空き家が出たときに、受付の順番に従って案内される形です。
なので「申し込んでから何か月」とは決まっていません。空きがいつ出るか次第ということになります。
定期募集(抽選)のほうは、4月・8月・12月の年3回。公開抽選で仮の当選順位を決めて、そのあと入居資格の本審査があります。
ここを整理すると、こういうことでした。
- 市営……募集の時期が決まっていて、結果が出るまでの日数も読める。かわりに、その時期を待つ必要がある
- 県営の常時募集……いつでも申し込めるかわりに、入居できる時期は空き次第
急いでいるのか、待てるのか。 そこで向き不向きが変わってきます。私はここを知らないまま「公営住宅はどれも同じようなもの」と思っていました。
落ちても、次が有利になるしくみがありました
抽せんと聞くと、「どうせ当たらないし」とあきらめたくなります。私もそう思いました。
調べてみたら、何度も落選している人が有利になるしくみがありました。
市営住宅では、落選した回数に応じて、抽せんの玉の数が増えます。 公表されている範囲では、2個から10個まで。玉が多いほど当たりやすくなる、というわかりやすい形です。
つまり1回で決まらなくても、続けて申し込んだ分だけ、次が有利になっていくということ。
「抽選だから運」と思って1回であきらめてしまうのが、一番もったいないんですよね。私も、ここを知らないままだったら、たぶん1回で手を引いていました……。
収入の基準|「月15万8,000円」は、額面でも手取りでもありません
さて、ここが一番大事で、一番誤解されているところです。
市営住宅に申し込める収入の条件は、こう書かれていました。
入居者全員の所得の合計が月額158,000円以下
ここに、大きな落とし穴がありました。
よく見ると「収入」ではなく「所得」と書いてあります。この2つ、まったく別の数字なんです。
- 額面(給与収入)……会社が支払った総額
- 所得……額面から「給与所得控除」を引いたあとの金額
- 手取り……額面から税金と社会保険料を引いたあとの金額
「所得」は、額面よりかなり小さい数字になります。 だから15万8,000円という数字だけを見ると、実際よりずっと厳しい基準に見えてしまうんです。
確かめ方は、源泉徴収票を見るのが一番早いです
手元に源泉徴収票があれば、「給与所得控除後の金額」という欄を探してみてください。そこを12で割った数字が、目安になります。

額面の年収を12で割るのではありません。 ここを間違えると、入れるはずなのに「無理だ」と判断してしまいます。
さらに、そこから家族の人数などに応じた控除を引くことができます。お子さんがいる世帯は、その分だけ引ける額が増えます。
控除の金額は住んでいる自治体の資料に細かく決められているので、ここで具体的な数字は書きません。ただ、「私の月給だと超えてるから無理か……」とあきらめる前に、一度計算してみる価値はあります。
数えない収入もあります
もう1つ知っておきたいのが、すべての収入が計算に入るわけではないということです。
私が調べた自治体の案内では、税金がかからない種類のお金は、収入の計算から外れると書かれていました。例えば生活保護の扶助料、雇用保険、傷病手当金、労災保険、休業補償、遺族年金など。仕送りや、通勤手当の一定額までも数えません。
「これも収入に入るなら、たぶん超えてしまう」と思っていたものが、実は入らない。そういうこともあります。正確な判定は、必ずお住まいの役所の住宅課で確認してくださいね。
ここが面白いところ|15万8,000円を境に、行き先が入れ替わります
調べていて、一番「そうだったんだ」と思ったのがこれです。
公営住宅に入れるのは、所得月額が15万8,000円以下の世帯。では、それを超えてしまった人はどうなるのか。
超えた人のための住宅が、ほかに用意されていました!
「定住促進住宅」といいます。「特定優良賃貸住宅の供給の促進に関する法律」にもとづいて、国の補助を受けて建てられた住宅で、中堅所得者層の世帯を対象にしたものです。
そして、その収入の条件がこうでした。
| 所得月額 | 入れる住宅 |
|---|---|
| 15万8,000円 以下 | 市営住宅・県営住宅(公営住宅) |
| 15万8,000円 以上 〜 48万7,000円 以下 | 定住促進住宅 |
気づかれましたか。同じ15万8,000円が、片方では「上限」、もう片方では「下限」になっています。
ちょうど裏返しで、隙間なくつながっているんです。収入が基準を超えたから終わり、ではなくて、行き先が変わるだけ。
これを知ったとき、見え方がずいぶん変わりました☆
子どもがいる世帯は、入り口がさらに広がります
もう1つ、見つけました。
定住促進住宅の下限は15万8,000円ですが、18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にある子がいる世帯(と、40歳以下の夫婦のみの世帯)は、下限が12万3,000円に下がります。
下限が下がるということは、公営住宅の上限(15万8,000円)と重なる帯ができるということです。
つまり子どもがいる世帯は、公営住宅と定住促進住宅の両方を選択肢にできるところがあるんです。片方に絞らなくていい。これは知っておいて損がないと思います。
名前がややこしい理由が、やっとわかりました
最初に私がつまずいた「名前の多さ」。あれには、ここまで調べてやっと納得できる理由がありました。
住宅供給公社という組織が、市営住宅の管理もしながら、公社自身が貸す住宅も持っているんです。同じ組織が、別の制度の住宅を2つ扱っている。だから混ざります。
整理すると、こうなっていました。
- 市営住宅・県営住宅……公営住宅法にもとづく住宅。収入の上限あり。家賃は収入に応じて決まる
- 公社の一般賃貸住宅……公社が所有している一般の賃貸住宅
- 定住促進モデル住宅……市内に定住してもらうことを目的に、中堅所得者層向けに建てられた住宅
見た目が似ているのに中身が違う。歩いて眺めているだけでは、絶対にわかりません。私が電話をかけて「そちらは市営ですね」と言われたのも、当然だったわけです。
ちなみに定住促進住宅の申し込みは先着方式で、単身では申し込めません。原則として夫婦か親子の世帯が対象になっています。
ひとり親には、専用の募集があります
ここは、同じ立場の方に一番伝えたいところです。
市営住宅には一般の募集とは別に「福祉向募集」がありました。対象になるのは、この3つの世帯です。
- ひとり親世帯
- 高齢者世帯
- 障害者世帯
県営住宅にも同じように福祉向の枠があり、母子世帯が対象に含まれていました。
つまり一般の応募者全員と同じ土俵で競うのではなく、別の枠で申し込めるということです。募集は年2回ありました。
ひとり親が使える手当や支援の全体像は、こちらにまとめています。
→ シングルマザーを支える手当・支援まとめ|私も助けられた5つの制度を解説
「20歳未満」というラインに気をつけて
ここで1つ、見落としやすいところがあります。
ひとり親世帯の定義は、「配偶者のない方と、20歳未満の被扶養者の世帯」と書かれていました。
20歳未満です。児童扶養手当は「18歳になった年度末まで」なので、住宅のほうがラインが長いんです。
「手当が終わったから、ひとり親向けの制度はもう使えない」と思い込んでいる方、いるかもしれません。住宅は、まだ間に合う可能性があります。 ここは必ず確認してみてくださいね。
ひとりでは申し込めません|UR賃貸との決定的な違い
これは、知らないとがっかりするところなので、先に書いておきます。
公営住宅は、原則として「夫婦又は親子(里子を含む)の世帯」が対象でした。婚約者や内縁関係の方、自治体によってはファミリーシップ制度の宣誓者も申し込めます。兄弟姉妹は、両親が亡くなっている場合などに限られていました。
つまり、ひとりでは申し込めないのが原則です。
単身で申し込めるのは、限られた場合だけでした。満60歳以上の方、障害者手帳をお持ちの方、生活保護を受けている方、原爆被爆者の方など。そして——
DVから逃れた方は、単身でも申し込めます
単身で申し込める人の中に、DV被害者が入っていました。
公表されている条件は、県の女性相談支援センターなどで保護を受けたあと5年未満の方、または保護命令の決定から5年未満の方です。
これは、あまり知られていないと思います。
子どもがいなくても、ひとりでも、家を出たあとの住まいとして、公営住宅という道がある。 もし今、その状況にいる方がこれを読んでいたら、役所の住宅課と、女性相談の窓口の両方に相談してみてください。制度は、使える人のために用意されています。
ちなみにUR賃貸は、単身でも普通に借りられます。「ひとりで住む」という点だけで見ると、公営住宅とURはまったく別の制度だと考えておくと、探すときに迷いません。
→ UR賃貸とは?メリット・デメリットと収入基準・割引制度も
それでも基準を超えてしまったら
収入が公営住宅の基準を超えて、定住促進住宅もピンとこない。そんなときの選択肢も、もう1つありました。
特別県営住宅です。公式の説明では、「普通県営住宅と、公社・UR賃貸住宅の中間に位置する中堅所得者向けの住宅」とされていました。
こちらは抽せんなしの随時先着順。申込書と必要書類を窓口に持っていく形で、案内書の配布時期も決まっています。
そしてUR賃貸。こちらは収入の「下限」がある代わりに上限がなく、礼金・仲介手数料・更新料・保証人がすべて不要という、かなり違う成り立ちの住宅です。
民間の賃貸で部屋を探すときに私が見ていたところは、こちらに書きました。
→ シンママのお部屋探し、選ぶとき大切にしていること【実体験】
まとめ|どこから見ればいいか
「全部わからない」から始まった調べものでしたが、最後はこういう形に落ち着きました。
- 所得月額が15万8,000円以下 → 市営住宅と県営住宅。両方見る(県営には先着順の枠がある)
- 15万8,000円を超える → 定住促進住宅、特別県営住宅、公社の賃貸、UR賃貸
- 子どもがいる → 定住促進住宅の下限が下がるので、選択肢が重なる帯がある
- ひとり親 → 福祉向募集を必ず確認する。子の年齢は20歳未満
- ひとりで住みたい → 公営住宅は原則むずかしい。URを見る(DV被害者は例外の規定あり)
そして、一番大事なこと。
収入の「所得」は、額面でも手取りでもありません。 源泉徴収票の「給与所得控除後の金額」を12で割って、そこから控除を引いた数字です。思い込みで「無理だ」と決めてしまう前に、一度だけ計算してみてください。
条件や募集の時期は自治体ごとに違いますし、年度で変わることもあります。気になったら、お住まいの役所の住宅課に「ひとり親の枠はありますか」と聞いてみるところからで大丈夫ですよ~。窓口の方が、ひとつずつ教えてくれます。
私も、電話1本で「そちらは市営ですね」と教えてもらったところから、ここまで来ました。わからないまま立ち止まらずに、まず聞いてみる。それだけで、見える景色がずいぶん変わります。
もし調べてみて「うちはどこに当てはまるんだろう」と迷ったら、その迷ったところを教えてくださいね。同じところで止まっている方が、きっとほかにもいるはずなので☆

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